理科における道徳教育の進め方

道徳的判断力や真理を大切にしようとする態度の育成するには???2023.1

 道徳教育はもちろん道徳科の授業が要ですが、理科の授業の中でも道徳教育の内容を意識して行えていますか???
 皆さんご存じの通り、学習指導要領では、

「学校における道徳教育は,特別の教科である道徳(以下「道徳科」という。)を要として学校の教育活動全体を通じて行うものであり,道徳科はもとより,各教科,総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に応じて,生徒の発達の段階を考慮して,適切な指導を行うこと。」

と規定されています。
これを受けて、理科の授業においては、その特質に応じて適切に指導する必要があることを示すものとされ、関連を明確に意識する必要があるといえます。

とは言え、「そう言われても・・具体的な場面が思い出せなく・・・」といったような悩みをお持ちではないですか。
そこで、具体的な場面で、どんなことしていけばいいか考えてみましょう。

1、「自然界のつり合い」では?

例えば、「自然界のつり合い」ではどうでしょう。
道徳では、「自然と人間との関わりを考えさせ,生命を尊重するとともに,畏敬の念を育て、自然環境の保全に寄与する態度を育成すること」とあり、このあたりは、理科の授業においても、かなり関連が期待されていると思います。

理科の「自然界のつり合い」では、「食物連鎖」や「生態系ピラミッド」などの概念を教えていますね。
「自然と人間との関わりを考えさせ、・・・」
とありますから、「食物連鎖」や「生態系のピラミッド」の中に人間も含まれることを気づかせ、「かかわりを想起」させたいのです。

例えば、みなさんが食事をするときに「いただきます」といいますね。これは、私たちの命をつなぐために、「貴重な命を粗末にせず、ありがたくいただく」という意味であると触れるのです。
乱獲や食物ロスなど自然界に負荷をかける問題について、できるかぎり少なくしていきたいところです。それが、「生命を尊重する」ことにつながりますね。

こういったことが、まさに理科の授業で期待されている道徳教育なのです。
そういう知識などが「自然環境の保全に寄与する態度を育成する」ベースとなっており、「自然を大切にする意欲」を高めることを、この単元の授業に結び付けたいものです。

2、「台風」、「地震」では?

次に、「台風」、「落雷」、「地震」などはどうでしょうか。
これらの事象は、人間の力でなくすことはできません。これらはまさに「大自然の強大な力」であり、あらがうことなどできません。

私たち人間は、このようなものに対して「恐れ敬う気持ち」をもちあわせています。これが、まさに道徳教育でいわれている「畏敬の念」なのです。
このようなことを踏まえ、理科で「台風」、「落雷」、「地震」について教えるときには、あわせて「畏敬の念」に気づかせていくことなどが大切なのです。

そしてまた、理科の授業では、これらの災害の被害をいかに少なくするかについて、科学的に考え、それを確実に実行する意欲と態度を育てたいものです。

3、「炭酸水素ナトリウムの熱分解」では?

次の例として、「炭酸水素ナトリウムの熱分解」では、どのように関連を図ったらよいでしょうか。何か思い浮かびましたか。これは、少し難しいかもしれません。
「見通しをもって観察,実験を行うことや,科学的に探究する力を育て,科学的に探究しようとする態度を養う」ことは、「道徳的判断力や真理を大切にしようとする態度の育成」に深く関連しています。

「炭酸水素ナトリウム」に熱を加えると、ホットケーキに空洞ができることから、何らかの気体が発生したことが想起されます。
この気体がなんであるか、「仮説を立てて実験方法を考える」ことは、「見通しをもって実験を行う」ことであります。この過程を大切にし、それを意識させること、「科学的に探究しようとする態度を養う」ことの一端を担うことができるのです。

また、「石灰水が濁ることは、二酸化炭素が発生したことの動かぬ証拠」であり、これがいわば「真理」です。これを大切にさせることは、迷信や根拠のない噂などに惑わされない人間を育てることにつながります。

近年では、第1回の「新型コロナワクチン接種」の際、副反応の1つに、「不妊症になるリスクがある」などの「科学的根拠のない噂」が広がり、人々の判断を惑わせてしまっている例が多く報道されました。
このころは、医療機関のひっ迫と経済へのダメージのどちらを優先してよいか悩ましかった時期が長く続いて、GO TO政策を進めると感染者が増えてしまうという構図を抱えていました。
このころ、一部の接種が難しい事情の方を除き、もしも、あと10%でも多くの国民が接種していたら、感染は抑えられたはずであり、医療機関のひっ迫や経済へのダメージも少なくできたはずだと言われていました。
それがわかっていたから、国や自治体はあの手この手で啓発し、接種の推進を図ってきたのです。

こういった場面においても、「道徳的判断力や真理を大切にしようとする態度の育成」がいかに大切であったことか、あらためて考えさせられたことです。

4、科学倫理の視点

科学技術の進歩は、便利な社会生活を生み出している一方で、人間や社会によくない影響を及ぼしてしまう例も少なくありません。例えば「原子力の利用」などがこれにあたりますね。「核兵器はどうか」、「原子力発電はどうか」、その是非や運用の仕方といった類の話です。
また「遺伝子工学」でも、遺伝子組み換えやクローンの持つ課題など、「どこまで利用してよいか」「どこからは危ういのか」など、倫理的視点の議論がますます重要となってきています。

また「遺伝子工学」でも、遺伝子組み換えやクローンの持つ課題など、「どこまで利用してよいか」「どこからは危ういのか」など、倫理的視点の議論がますます重要となってきています。
このようなことは「AI」についても同様です。「AI兵器」などは、その議論が必要なもの最たるものとなることでしょう。

科学技術の進歩は、便利な社会生活を生み出している一方で、人間や社会によくない影響を及ぼしてしまう例も少なくありません。例えば「原子力の利用」などがこれにあたりますね。「核兵器はどうか」、「原子力発電はどうか」、その是非や運用の仕方といった類の話です。
このような中、研究者や技術者などの倫理や社会的責任が問われることはもとより、それを利用する側の一般市民の判断も、求められる時代となってきているのです。

ここまで、お話を進めてくると、多くの先生方は、理科の授業の多くの場面で、意識的あるいは無意識のうちを含め、道徳教育を行っていたことを再認識したことでしょう。
そして、理科の授業の中で、道徳教育の視点を今まで以上にしっかりと取り入れて、適切な道徳教育を行うことが、私たちの未来にとって、どれだけ大切なことが、おわかりいただけたことと思います。

投稿者: KANTAN理科

感嘆!理科と申します。 元公立学校教員です。 理科、環境教育、防災教育に関心があります。   先生方はとかく忙しいので、本サイトを読むことで、少しでも教材研究やきょいく技術の習得をスピーディーに行ってもらいたいと考えています。 特に若い先生方のお役に立ちたいと思っています。

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