学習指導要領の改訂に伴い、中学校でもダニエル電池が使われるようになりました。
一見、ボルタ電池はシンプルな反応のように思いますが、実は大変複雑な反応が起きているといわれています。
一方、ダニエル電池は、ボルタ電池の欠点を改善することによって作られた、世界初の原始的かつ実用的な一次電池です。
仕組みが比較的簡単なダニエル電池は、電池の基本を学ぶ教材として、頻繁に取りあげられています。
ここでは、ダニエル電池の仕組みを深く理解し、生徒の素朴な疑問に答えることができるよう準備しておきましょう。
1、「ボルタ電池」と「ダニエル電池」の違い
ボルタ電池が電圧低下を起こすのは、発生した水素ガスがCu板の表面に付着することで、液の接着面積が減少し、次のH+が e–を受け取りにくくなってしまうなどの、大変複雑な現象が起るためと言われています。
一方、ダニエル電池では、Zn板からe–が流れてくると、Cu2+がこの受け取りと手となって、単体のCuとなって析出し付着します。
これらのことから、継続的に電気を得ることができる特徴をもつのです。
2、「素焼き板」の役割とは
ダニエル電池において、素焼き板(もしくはセロファン)は2つの役割を担っています。(素焼き板とは、素焼きの植木鉢をイメージさせればよいかと思います。)
素焼き板の1つ目の役割は、「2つの溶液が混ざるのを防ぐ」役割です。
もし、この2つの液体が隔てられていないと、Cu2+がZnの近くに来たとき、イオン化傾向の関係で、Zn極にCuが析出して付着するとともに、e–を導線に流さなくなり、電池としては困った現象が起きてしまいます。
素焼き板の2つ目の役割は「イオンを透過させることで、電気的な偏りがないようにする」というものです。
ダニエル電池を使い続けていると、負極では次第にZn2+が、正極ではSO42-が増加していきます。
しかし、素焼き板には、たくさんの小さな穴があります。この穴を通り抜けて、余ったZn2+が正極側に移動し、余ったSO42-が負極側に移動して、それぞれの電解液の電気的な偏りがないようにできるのです。
ダニエルは、なぜ素焼き板を、選んだのかというと、素焼き板は多様な大きさの穴が空いていて、手軽に手に入ったからだと想像しています。現代の技術なら、ゴアテックスのような穴のサイズをいかようにでもできるのでしょうが、そうはいかなかったのだと思います。
また、素焼き板のかわりに、セロファンやセロルースで分けたりします。
セロファンは、木材パルプを原料とした、天然素材のフィルムです。
セルロースは、セルロースとは植物細胞の主成分で食物繊維の一種です。
どちらも素焼き板と同じように多孔質(たくさんの小さな穴がある状態)なので、イオンを通過させることができます。
このような素材を使うことによって、「イオンが通過できる」ことと、「2つの液の混入を防ぐ」ことに簡単に触れることが大切です。
(個人的な感想としては、「混入を防ぐ」とは、「混入を遅らせる?」程度かと思いますが・・)
そうしないと生徒は、「なぜ、素焼きの板?なぜセロファン?」と、頭の中が混乱してしまうことでしょう。
さらに高度の例として、別々の容器に入れて2つの水溶液を完全に分離させておき、塩橋でつなぐ方法もあります。
(塩橋とは、U字管に硝酸カリウムなどの飽和溶液をいれて寒天で固めたもので、素焼き板と同様の働きをします。)
3、起電力をあげる工夫
ダニエル電池で、より大きな起電力を得るためには2つの工夫があります。
第一には、「ZnSO4の濃度を低くしておく」ということです。
はじめから溶液中にZn2+がたくさんあると、(溶けて生成するZn2+の居場所がないため)Zn板が溶けづらくなってしまうからです。
第二には、「CuSO4の濃度を高くしておく」ということです。
はじめから溶液中のCu2+が少ないと、早い段階でCu2+を使い切ってしまうからです。
ダニエル電池を教える場合は、できればその製作から行うとよいと思います。完成すると、電圧が生じて電池になることを実感できます。
そうしたのちに、電池の電極における変化についてイオンのモデルを用いて表現させ、電極で生じた電子が回路に電流として流れることを理解させるとよいかと思います。
また日常生活や社会では、乾電池,鉛蓄電池,燃料電池など、様々な電池が使われていることに触れ、よりよい電池を開発することが求められていることに触れましょう。
参考文献
ダニエル電池(仕組み・各極の反応式・素焼き版・起電力など) – 化学のグルメ (kimika.net)
ダニエル電池-中学 | NHK for School