陰極線をどのように扱うか

電子の存在を見出す学習を、どのように進めていくか???

 

陰極線等の観察から、電子の存在を見出す学習を、どのように進めていったらよいのでしょうか。
その思考の過程を整理するとともに、現在課題となっていることについて、簡単にアウトラインをまとめてみました。また、それぞれの実験にどんな意味が含まれているか、少し専門的な部分まで掘り下げて考えてみたいと思います。

1、雷と誘導コイル

前時に、静電気の学習をしていることが多いかと思います。そこで、それを想起させた上で、雷は雲にたまった静電気が、上空で放電したものであることを教えましょう。
また、これと同様な現象を、誘導コイルを用いて人工的に発生させ、観察させましょう。

2、クロス真空計

クロス真空計は、真空度の違いによる放電状態を観察する装置です。
クロス真空計に高い電圧をかけると、気体内に電流が流れます。この様子を観察させ、真空放電であることを教えます。このとき、気圧によって放電の様子が変化することを確認させます。

この現象について、少し詳しく解説してみましょう。
ガラス管の両端の電極に数万ボルトの直流電圧をかけ、真空ポンプにより気圧を下げると、気圧が数十mmHgになると、管内が赤紫色のひも状に光り、電流が流れます。
さらに気圧を数mmHg以下にすると、明暗のしま模様が現れます。この状態を一般的に真空放電といます。
またこのときの気体の種類を変えると種々の色を放つので、ネオンサイン、蛍光灯等に利用されます。
さらに気圧を下げていくと管内は暗くなり、特に陽極近くの壁が緑色の蛍光を放ちます。内部の圧力をこのくらいにした放電管をクルックス管と呼びます。

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3、十字板入りクルックス管

陰極線の進路に金属製の十字板を置くと、その形と同じ影が発生ます。このことから、陰極線に直進性があることに気づかせます。
またこのとき、陰極と陽極を逆にすると、影は現れません。このことから、陰極線は陰極から陽極に流れていることに気づきます。
この現象から、陰極線の正体の仮説として、光(電磁波)説と粒子説に言及できます。

光(電磁波)説については、十字の物体に懐中電灯の光をあてたときの影のでき方から、そのイメージを理解させることができます。
粒子説については、霧吹きを使って光説と同様に理解させることができます。

参考までに、陰極線が常に陰極表面に対して垂直に放出されることは、陰極線が粒子であるという証拠の一つになりました。これは、もし赤熱した金属板のような発光であれば、あらゆる方向に光を発するはずと考えられたからです。

4、羽根車入りクルックス管

羽根車入り放電管に陰極線をあたると、羽根車が陰極線の進む方向に移動します。
かつては、このことから、粒子説が正しいことと説明されました。しかし、本当は羽根の表面で陰極線が当たっている部分が加熱され、熱で膨張した周りの気体が羽根を押すことがわかっています。
この実験から、陰極線は粒子であることを示せないことは、もどかしいところですが、やむをえません。
かといって、3で述べたような解説をすることは、中学生の実態を考えると難しいと言わざるをえません。
多くの科学者が研究した結果、粒子説が正しいことがわかりました。
と、簡略して解説することしかないようです。

5、電場をかけたクルックス管

陰極線に電場をかけると +極側に曲がります。「+極側に引き寄せられるのは、陰極線が負の電荷を持っているから」と、主体的に生徒に考察させたい場面です。
また、これはむずかしいことですが、光であるならば、+極には曲がらないはずと考察する生徒もいるかもしれませんね。

このようにして、陰極線の正体は、負の電荷をもった粒の流れであることがわかり、電子の存在に気づくことになります。
参考までに、当時の電子を研究する科学者たちにとっては、導線を流れる電子よりも、真空中を飛ぶ電子を調べる方が研究をしやすかったからのようです。

また、このような中でレントゲンは、1895年にクルックス管から放射されるX線を発見しました。
さらには、真空放電管の技術から生まれたのがブラウン管(1897年)であり、さらには真空管(1904年)の発明につながったとのことです。
このようにして真空放電の研究は、近代物理学の誕生に重要な役割を果しました。

6、演示実験か、動画視聴か?

この陰極線の実験については、Ⅹ線が発生し危険であるとの指摘をする意見もあり、動画視聴の方が望ましい旨の意見もあるようです。
そこで、このことについて、どのように扱ったよいか考えてみましょう。

まずは、学習指導要領解説(平成29年告示)理科編では、次のように書かれています。(下線部筆者)

雷も静電気の放電現象の一種であることを取り上げ,高電圧発生装置(誘導コイルなど)の放電やクルックス管などの真空放電の観察から電子の存在を理解させ,電子の流れが電流に関係していることを理解させる。その際,真空放電と関連させてX線にも触れるとともに,X線と同じように透過性などの性質をもつ放射線が存在し,医療や製造業などで利用されていることにも触れる。

ことから、国は観察することを前提にしているものと解釈されます。

一方でこの観察は、Ⅹ線が発生するため危険であるとの要旨について、簡単にまとめると、次のようになります。
①古いクルックス管はリスクが大きい
②新しい低電圧駆動クルックス管は、安全性が高く、本体 22,000円、電源も18,000円と手軽な金額で発売されている。
③古いクルックス管を使用する場合は、印加する電圧を下げる、流れる電流を下げる、距離を取る、遮蔽をする、時間を短くするなどの対応をとる。

③について過去の研究から策定した暫定ガイドラインでは、
・誘導コイルの放電出力は、電子線の観察が出来る範囲で最低に設定する
・放電極を必ず使用し、放電極距離は20mm以下とする。
・出来る限り距離を取る。生徒への距離は 1m以上とする。
・演示時間は10分程度に抑える
となっており、本当にこれで安全かについて、全国規模の実証試験が必要と述べています。なお、次のサイトで詳しい内容を見ることができます。
bigbird.riast.osakafu-u.ac.jp/~akiyoshi/Lecture/20201118_放射線展オンライン講義.pdf
bigbird.riast.osakafu-u.ac.jp/~akiyoshi/Lecture/20180304_放射線教育フォーラム勉強会資料.pdf

このようなことから、今後の研究の推移を見たり、これに伴う国や学校設置者の対応に気を留めたりすることが必要な、繊細な問題であると思っています。

参考文献
真空放電(しんくうほうでん)とは? 意味や使い方 – コトバンク (kotobank.jp)

投稿者: KANTAN理科

感嘆!理科と申します。 元公立学校教員です。 理科、環境教育、防災教育に関心があります。   先生方はとかく忙しいので、本サイトを読むことで、少しでも教材研究やきょいく技術の習得をスピーディーに行ってもらいたいと考えています。 特に若い先生方のお役に立ちたいと思っています。

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